How work at home
豊かな心の自宅ビジネス
The best you!
「早く食べなさい!」
そんな風に怒鳴るつもりはなかった。
「怒鳴ったら可哀想だろ!」
「私だって怒鳴りたくないわよ!」
いつも、子どもたちに優しい顔ばかりしているあの人に苛立った。
「子ども達に支度させて、車に乗せてあなたを駅まで送って、この子を保育園に送って。そのあとパートなの!時間がないのよ!」
「月に4万程度のパートだろ。大変なら辞めればいいじゃないか」
「私は、家事もこなしてパートで家計を助けてるの!わかってる?」
「・・・無理して、こんな郊外に家を買ったからじゃないか?俺も、毎日満員電車で1時間かかるんだよ。」
「…それも、これも、あなたの給料が安いからじゃない!」
そんなこと言うつもりじゃなかったのに・・・。
あなたは、寂しそうな目でこう言った。
「・・・顔つき、変わったな」
私は、言葉を飲んだ。
「今日は送らなくていい。遅刻してもバスで行く」
あなたは背を向け、部屋から出て行った。
「え・・・」。

「まただ…。この洗濯機。やっぱり新しいのが必要だわ…」
止まった洗濯機を叩いて見るが、動かない。毎回だから、わかっているけど、今日は特別にがっかりするわ。
だから、文句も言いたくなる。
「また、手洗いね。…こういう時間のロスが大きいんだから。あの人は私の苦労なんてわかってないのよ!」
洗濯物を取り出し洗面台で洗う。それがとても億劫に感じる。
ふと、手を止めて鏡を見た。
「顔つき、変わったかしら?眉間のシワ、こんなに深かったかな?」
目尻も・・・。なんとなく、顔全体がたるんで見える。
「鏡、昨日も今朝も、見てなかった気がする…」
リグングから聞こえた子どもの泣き声にハッとしたわ。
それがなければ、何時間も鏡の世界を彷徨ったかもしれない…。
「はいは〜い。今、行くからね〜」
「また、ここに入れちゃったの?」
ベッドの下に手を入れて、おもちゃを取り出す。
一緒に、名刺サイズのカードが出てきたの。
「Empowering Women Worldwide?世界中で女性を力づけるって」
前に、何かのイベントで渡されたカードだった。
裏に、子育て相談、ベビーシッター案内、女性フォーラム、
お金の勉強、自宅ビジネス…か…」
そこに書かれた文字に目が止まった。
『価値のない高額商品の売り込み、詐欺まがいのビジネス案件の勧誘なんて、うんざりですよね。でも、心も経済も時間も豊かになる方法は身に付けたくないですか?何が鍵になるのか?まずは、その見極め力が肝心』
「そりゃ、そうだけど…。でも、そんな時間もないわけよ」
そう呟いて、カードを鏡台の上にぽいっと置いた。
お風呂上がりに、裸で走り回る下の子をバスタルで捕まえる。
「やだやだ!パパが帰るのを待つんだ!」
「パパを待たなくていいの。子どもは9時に寝ましょう!」
ぐずる下の子が風邪をひかないよう、急いで体を拭く
「早く寝ましょう。明日の朝も保育園」
「ママはパート?」
「そ、ママは、明日の朝もパート。パート行って、買い物して、保育園にお迎えに行って、洗濯して、掃除して、ご飯つくって、あなたたちをお風呂に入れるの。あなたたちが良い子で眠ってくれたら、ママは幸せなのよ」
早口で話して、パジャマを着せる。
「幸せってなに?」
「え?」
言葉に詰まった私を見て上のお姉ちゃんが、こう言った。
「私たちが良い子でご飯食べて、お風呂はいって、早く寝たら、ママは幸せなんだよね?」
「…。そ。あなたが自分のこと全部やったら、もっと幸せよ」
ブスッとする上の子の髪を乾かし、遊んでいる下の子を抱き上げ、
二人をベッドに入れて、子ども部屋の電気を消した。
新婚の時から使っている鏡台に座る。
いつもは、鏡も見ないで顔にジェルを塗っているけど、今日は鏡を見てみようって思った。
やっぱり、たるんでいる。眉間のしわ、とても気になる…。
安物のオールインワンジェルを顔に塗りながら、効果あるのかな?と疑いを持ってボトルを眺める。成分を見てもわからない。
「ま、今の家計なら、このジェルで丁度なのよ」
気になる眉間のシワを指で伸ばして、ジェルを塗りこむ。
鏡台に置いたカードが目に止まる。
カードを手にとって、ベッドの上に寝転ぶ。
カードを裏表返しながら見ていて、うたた寝してしまった。
ふと、目を覚ます。
壁の時計の針が10時を回っている。
「寝ちゃったんだ…」
クローゼットからあなたが出て着た。
「あ、ごめん。すぐご飯するね」
「いいよ。食べて着た。今日は会食だったんだ」
「え〜?聞いてなかったわよ。言ってくれれば、ご飯あなたの分、作らないのに…」
「今朝、言えなかっただろ」
「あ…。今朝は、、、。」
謝ろうとしたら、あなたが止めた。
「謝らなくていい。お互いだから。。。それより、これ何?」
あなたは、私が持っていたカードを見せた。
「それ…」
「持ったまま寝て落としたんだね・・・ここに書いてあること、大事だと思うよ。でも、怪しいものに手を出したらダメだから」
そう言って、あなたはカードをゴミ箱に入れて、部屋を出て行った。
私は、ムッとしてゴミ箱からカードを取り出した。
そして、それをしっかり見た。
読んでいる途中で涙が溢れてきた。涙で文字が滲む。
私は、涙をぬぐい、階段を降りて、リビングで発泡酒を飲むあなたの前に立った。
そして、カードを見せて、読み上げた。
「あなたは『妻』かもしれないし『母』かもしれない。ただ、忘れないで。あなたは、あなたの人生の主人公です。
大事なのは、あなたが輝くこと。それが、ご家族のより大きな幸せだったら?自分の人生にチャレンジしてみたくないですか?」
呆気にとられた顔をしているあなたに言った。
「怪しいか、怪しくないか、本物かどうかなんて、確認してみなきゃわからないじゃない!私が輝くなら、いいんじゃないの?そしたら、顔つきだって昔みたいになるわよ!」
なんだか、涙が溢れて嗚咽が止まらなくなった。
あなたは、ただただ私を見つめていた。
